自転車操業の限界。給料日にATMを3軒ハシゴして、手元に1000円しか残らなかった私のルーティン

【免責事項】
本記事は筆者の個人の実体験に基づくエッセイであり、法的アドバイスや借金解決を保証するものではありません。具体的な債務整理の手続きや法解釈については、弁護士や司法書士などの専門家にご相談ください。

世の中のサラリーマンにとって、給料日は1ヶ月で一番楽しみな日かもしれません。
美味しいものを食べたり、欲しかった服を買ったり。

でも、かつての私にとって、給料日は「一番忙しくて、一番憂鬱な日」でした。

右から左へ、お金を移動させるだけの虚しい作業。
自分の口座に入った給料は、数時間後にはすべてカード会社への返済に消えていくからです。

「A社の返済期日に間に合わせるために、B社で借りる」
「B社の枠が足りなければ、C社へ走る」

これは、私が3年間続けていた「地獄のATM巡り」の記録です。
もし今、あなたが同じことをしているなら、それはもう限界が近いサインかもしれません。

給料日当日の過密スケジュール

当時の私の給料日のスケジュールは、分刻みでした。仕事の忙しさではなく、「返済の締め切り」に追われていたからです。

昼休みダッシュ。銀行ATMに並ぶ焦燥感

給料日(25日)の12時。チャイムが鳴ると同時に、私はオフィスを飛び出していました。
向かう先は、会社の最寄りにある銀行ATMです。

私の給料口座からは、クレジットカードの引き落としや家賃の支払いが設定されています。しかし、自転車操業中の私は、常に口座残高が数百円の状態。

給料が振り込まれた瞬間に全額を引き出し、手動で他の返済口座へ入金したり、消費者金融への返済原資にしたりしなければなりません。もし会社の誰かとランチに行くことになり、昼休みにATMへ行けなければ、その時点で「引き落とし不能=延滞」が確定してしまいます。

だから、必死でした。
ATMの前には、給料を引き出しに来た人たちの長蛇の列。

「早くしてくれよ…」
「なんで通帳記入なんてしてるんだよ…」

前の人の背中を睨みつけながら、スマホの時計とATMの画面を交互に見る。自分の借金のせいなのに、無関係な他人にイライラを募らせる。そんな自分が心底嫌いでした。

A銀行→B消費者金融→Cカード会社への移動

無事に給料(現金)を引き出した後は、そこから「返済ツアー」の始まりです。

  1. まず、メインバンクで家賃と光熱費分を残して全額引き出す。
  2. その足で駅前の消費者金融のATMへ走り、利息分を入金して枠を空ける。
  3. 空いた枠(数万円)をすぐにキャッシングで引き出す。
  4. その現金を握りしめて、別のクレジットカード会社のATMへ入金する。

封筒に入れた現金をカバンに隠し、駅前のATMコーナーをハシゴする惨めさ。
特に消費者金融の無人契約機やATMに入る瞬間は、「誰かに見られていないか」と常に背後を気にしていました。

もし会社の同僚に見られたら? もし地元の友人に会ったら?
そんな自意識過剰な被害妄想で、私の背中はいつも汗ばんでいました。

財布の中身は増えたのに、自分のお金じゃない感覚

ATMを巡っている最中、私の財布や封筒には、一時的に20万円、30万円という大金が入ります。でも、それは私のお金ではありません。

一瞬だけ手にする「20万円」の重み

給料全額を引き出した時の、札束の厚み。
一瞬だけ「これがあれば、旅行に行けるな」「美味しい寿司が食べられるな」という妄想が頭をよぎります。

でも、それは数分後には機械に吸い込まれて消える運命にあるお金です。

右のATMから引き出して、左のATMへ入れる。
私はただ、お金をA地点からB地点へ運ぶだけの「現金の運搬係」でした。
汗水垂らして働いた1ヶ月の対価が、私の手元を一瞬通り過ぎていくだけ。その事実に気づいてしまった時の虚無感は、言葉にできないほど重いものでした。

手数料だけでランチ代が消えていく

自転車操業をしていると、金銭感覚がおかしくなります。
数万円の借金をすることには麻痺しているのに、数百円の出費には敏感になるのです。

  • 時間外手数料:110円
  • 提携ATM利用手数料:220円

A社、B社、C社とハシゴをするたびに、数百円ずつチャリンチャリンと消えていきます。
1日でATM手数料だけで1,000円近く払うこともありました。

「今月はピンチだから、ランチは我慢してコンビニのおにぎり1個にしよう」

そうやって150円の節約をしているのに、その裏で何倍ものATM手数料を払っている矛盾。
まさに「手数料貧乏」。冷静に考えれば異常な状態ですが、当時の私は「手数料を払ってでも、今日中に返済しないと終わる」という強迫観念に支配されていました。

ある日突然訪れた「詰み」の瞬間

そんな綱渡りのような生活は、約3年続きました。
しかし、終わりは突然やってきます。

画面に表示された「お取り扱いできません」

ある蒸し暑い夏の日でした。
いつものように、A社の返済に充てるため、B社のカードでキャッシングをしようとしました。B社の枠はあと5万円分残っているはずでした。

カードを入れ、暗証番号を押し、金額を入力する。
機械音がして、現金が出てくるのを待つ。

しかし、出てきたのは現金ではなく、1枚の明細票とカードでした。
画面には「このカードはお取り扱いできません」という無慈悲な文字。

「え? 磁気不良かな?」

私は焦って、カードのICチップをハンカチで拭き、もう一度挿入しました。
でも、結果は同じ。「お取り扱いできません」。

その瞬間、冷や汗が背中を伝いました。
「利用停止(エラー)」
B社が、途上与信(契約中の審査)を行い、私の他社借入の多さを理由に、限度額をゼロにしたのだと悟りました。

ATMの前で立ち尽くした日

B社から借りられなければ、今日のA社への返済資金が足りない。
A社の返済ができなければ、A社のカードも止まる。
そうすれば、家賃や光熱費の引き落としもできなくなる。

ドミノ倒しのように、私の生活が崩れ去る音が聞こえました。

駅前の雑踏の音、ATMのアナウンス音。
それらが急に遠のき、頭の中が真っ白になりました。
手元に残っていたのは、ATMをハシゴした後の、わずか1,000円札1枚だけ。

「ああ、詰んだ」

その日、ついに私の自転車のペダルは動かなくなりました。

まとめ

「自転車操業」とはよく言ったものです。
ペダルを漕ぎ続けている間は倒れませんが、一度でも止まれば、その瞬間にすべてが転倒します。

私は3年間必死に漕ぎ続けましたが、それは「借金を返していた」のではなく、「借金の寿命を先延ばしにしていた」だけでした。
あの暑い日、ATMをハシゴしていた時間も、払ってきた手数料も、すり減らした精神力も、すべてが無駄だったと今なら分かります。

もし今、あなたが給料日にATMをハシゴしているなら。
それはもう、「限界」のサインです。

ペダルが重くて動かなくなる前に、一度自転車を降りて、誰かに助けを求めてください。
私のように、ATMの前で立ち尽くしてしまう前に。


FAQ(よくある疑問)

当時を振り返り、よく聞かれる質問に正直にお答えします。

Q:自転車操業は何年くらい続けられましたか?

A:私の場合は約3年です。
最初の1年は「ボーナスで返せるだろう」と楽観視していましたが、最後の1年は毎日お金のことばかり考えていて、生きた心地がしませんでした。もっと早く諦めて専門家に相談すればよかったです。

Q:限度額の増額申請はしなかったのですか?

A:何度もしました。
最初は通りましたが、借入総額が年収の3分の1(総量規制)に近づくと、審査に落ちるようになりました。増額審査に落ちた履歴も信用情報に残るため、余計に自分の首を絞めることになりました。

Q:自転車操業をやめるにはどうすればいいですか?

A:物理的に「借りられない状況」を作るしかありませんでした。
自分の意志でやめるのは無理でした。私の場合は、弁護士に債務整理(任意整理)を依頼しました。
弁護士からカード会社に通知が行くと、すべてのカードが強制的に解約(利用停止)になります。皮肉ですが、カードが使えなくなったことで、初めて「借金に頼らない生活」をスタートできました。